「正倉院とシルクロード」
宮内庁正倉院事務所長
米田雄介
正倉院事務所の米田でございます。このたびここシルクロード・トラベルフォーラムにおきまして、各国代表の皆様方の前で、正倉院とシルクロードに関するお話をさせていただく機会を与えられましたことは大変光栄なことと存じております。
世界は一つだという言い方をいたします。全く近ごろのマスメディアの発達を考えますと、私もそのように実感をいたしております。アジアという地域に限定いたしましても、古代から現代まで西アジアと東アジアの間にはさまざまな交流が行われてまいりました。特に古代におきましては東西のアジアの文化、経済等の交流が、まさに本日ここにご列席の皆様方のお国の中あるいはそのお国の近くを通る大動脈と言いましょうか、そういうものを経由して行われました。そのような交流の行われた道をシルクロードというように呼んでおります。
数年前に私は中国の西安市にまいりました。その市の中心部に大きな駱駝やペルシア人らしき人物の石像が置かれておりました。西安市はかつて唐の都、長安のあったところでございます。この長安が東のシルクロードの出発点であり、西からやってきました人にとりましては、東の終着点であります。しかし本当の意味の終着点というのは、もう少しさらに東にあったのではないでしょうか。古代におきましては、西方からもたらされました文化は中国固有の文化と融合いたしました。新たな文化を形成してさらに東の国に伝えられました。つまりその最終到達点が700年代の我が日本国の首都、奈良の都でした。
その意味で現在の奈良県、もう少し範囲を狭めますと奈良市と。そこをシルクロードの終着点というように呼んでおります。さらにもう一つ限定いたしまして、私どもが現在管理しております正倉院のことをシルクロードの終着点という言い方もあります。むしろ、この正倉院こそがシルクロードの終着点にふさわしいのではないでしょうか。
もう少し詳しく、なぜ正倉院がシルクロードの終着点であるかということについて、これから順次お話をさせていただきますが、その前に正倉院とは何かについて少しご説明させていただきます。
正倉院は東大寺の北西ほぼ300メートルぐらいのところに位置しております。その東大寺はこの現在私どもがおります建物からやはり西北に500メートルぐらいでしょうか、そこらあたりのところに位置しています。この東大寺の象徴的建物が大仏殿と呼ばれているもので、その建物の中に我々は大仏様と呼んでおりますが、そういう仏像が安置されております。この大仏殿は8世紀に建造されましたが、その後、火災などのために建て直されております。しかし今もこの建物は世界最第の木造建造物であります。また大仏様自身も火災に遭っておりますけれども、こちらも鋳造されたブロンズ像としてはこれまた世界最大のものであります。
私どもは大仏様、大仏様と言ってこれを尊敬しておりますが、この大仏様の前に立ちますと、私などは日々の生活に追われていることを忘れさせられるような、そういう存在です。別の言い方をしますと、毎日あくせくと働いておりますが、そういう人間関係にも苦労しているわけでありますけれども、そういうようなものはいかに些細なことであるかということを思い知らされます。その大仏殿や大仏様は奈良の、いやあるいは日本の宝であります。明後日に大仏殿や正倉院を見学なさるというご予定も伺っております。ぜひじっくりとご覧になっていただきたいと思います。
大仏様はつまり8世紀の中頃、もう少し厳密に言いますと743年に我が国の天皇である聖武天皇が建立を命じ、752年に完成いたしました。この完成の4年後に聖武天皇が亡くなりますが、その天皇が身の回りに置いて使用していたもの、あるいは部屋の装飾品、そういうものが天皇の后であ
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